※本記事は、ハザードトーク M1に関して多く寄せられた質問をもとに、公開情報・取材内容・技術的仕様の確認結果をまとめたものです。導入可否の判断は、必ず最新の公式情報と自社の運用要件を照らし合わせてご検討ください。
目次
Q1. 「法人専用回線」とは何が“専用”なの?
A. ハザードトークは、光通信グループ系の MVNO(仮想移動体通信事業者)がドコモ等から帯域を借り、SIMに組み込んで提供しているサービスです。
“法人専用”とは「契約プランが法人名義でまとめられている/帯域を法人枠で確保している」程度の意味で、災害時に必ず優先接続されるわけではありません。
通信インフラ自体はキャリア網そのもの。
ahamo、LINEモバイル、Y!mobile、楽天モバイルと同じ「間借り型」カテゴリーに入り、回線品質やエリアは通常のスマホと基本的に共通です。
Q2. 「災害時でもつながる」と聞いたけれど本当?
A. 条件付きです。
- キャリア網(基地局・バックホール)が生きていれば通話できます。
- スマホが圏外、または通信インフラ自体がダウンしていれば、ハザードトークも同様に通信不能です。
- 電波が届く災害現場での多人数通話や指揮系統共有には有用ですが、“最後の砦”としては衛星電話など異系統回線との併用が現実的です。
Q3:「令和6年能登半島地震の被災地で、ハザードトークが大活躍したと聞きました。本当でしょうか?」
A:一部の場面では有効に使われた可能性はありますが、“災害直後から通信できた”という表現には注意が必要です。
Q2でもお答えした通り、ハザードトークは、キャリア(ドコモなど)のLTE通信網を使ったIP通話端末です。
したがって、スマートフォンと同様に基地局・回線網が生きていれば使用可能ですが、通信インフラがダウンしていた場合には利用できません。
災害直後は通信不能 当然ハザードトークも同様
- 災害直後には広範囲で基地局の停止・圏外状態が発生し、ハザードトークを含めたキャリア網依存の通信手段は使用不能だったことが実証されています。
- 通信が復旧したのは数日後以降であり、その時点ではスマートフォンや携帯電話も同様に使用可能だったと推察されます。
したがって、
「地震直後にハザードトークだけが通話できた」
という主張は、技術的にも事実的にも信ぴょう性が極めて低いと言えるでしょう。
■ 実際の災害時の通信状況(令和6年能登半島地震)
総務省や通信キャリアの公開資料によると、地震発生直後の通信状況は以下の通りです。
① キャリアが「未通エリア」を公表
- ドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天モバイルの各社は、1月1日23時時点で広範囲に未通エリア(グレー表示)の復旧エリアマップを公開しています (参考資料:携帯4社が「復旧エリアマップ」公開、令和6年能登半島地震で)
- 災害直後、多くの地域が「通話できない」または「非常に使いにくい」状態であったことが明示されています。
② 総務省報告:多数の基地局が完全停止
- 総務省の報告によれば、能登半島地震によりNTTグループだけで839基の基地局が停止。(参考資料:総務省・令和6年能登半島地震を踏まえた通信・放送分野の大規模災害対策について)
- 原因は停電・土砂崩れ・回線断などで、多くの地域で携帯通信が完全に途絶しました。
③ 復旧までに“数日”を要した実態
- KDDIは、3月21日時点でも一部で未復旧エリアが残っていたと明記しており、応急復旧完了には「数日〜数週間」かかっていたことが確認されています。(参考資料:【期間延長】令和6年能登半島地震に伴う支援について)
- ソフトバンクも1月16日時点で移動基地局や衛星アンテナにより応急対応を行ったと発表。(参考資料: 令和6年能登半島地震: 通信ネットワークの応急復旧について)
- また、独立系メディアの報道によれば、1月12日時点でも複数エリアで通信障害が継続していたことが記録されています。(参考資料: 震災から約2週間、携帯電話のサービスエリアはどれほど復旧したのか)
■ ハザードトークの正しい使い方と限界
ハザードトークは、スマートフォンなどの電波が届く場所において、多人数同時通話や一斉情報共有、通話録音管理などに優れた業務用IP無線ツールです。
特に、通信網が正常に機能している現場では、災害対応や日常業務において効果的に活用できます。
しかし、あらためて強調しておきたいのは、
「災害直後にハザードトークだけが通じていた」
という主張は、技術的に極めて考えにくく、公的資料や現地報告に照らしても、信ぴょう性に欠けると言わざるを得ません。
仮に一部で通話が可能だったとすれば、それは回線が復旧した後の話である可能性が高く、
その時点ではスマートフォンや一般の携帯電話もすでに利用可能であったと考えられます。
したがって、ハザードトーク単体では、災害初動時の通信手段としては不十分といえるでしょう。
本当に必要とされるのは、通信網に依存しない“自立型通信手段”との併用です。
■ 通信インフラに依存しない「自立型通信」とは?
● Starlinkとは?
Starlink(スターリンク)は、スペースX社が提供する衛星ブロードバンド通信サービスです。
多数の小型衛星を低軌道に配置し、地上アンテナ(端末)と直接通信することで、携帯キャリアの基地局に頼らずに高速インターネットを実現します。
特に「Starlink Mini」などの携帯型モデルは、災害現場や山間部・離島などでも即時にネット環境を構築できるため、自治体や企業のBCP(事業継続計画)対策として注目されています。
● 衛星電話とは?
衛星電話は、衛星を経由して通話を行うため、地上の基地局や回線がダウンしていても通話が可能な通信手段です。
主な機種には以下のようなものがあります:
種類 | 特徴 |
---|---|
Inmarsat IsatPhone2 | 安定した通話品質。世界各地の海上・陸地で広く対応。 |
Iridium 9575 Extreme | 極地・山岳地帯でも使用可能。全地球カバーが特徴。 |
これらはすべて、災害発生直後の通信確保やBCP対策に有効です。
ハザードトークは便利な業務用ツールですが、災害初動の通信を担うには限界があることを理解しておく必要があります。
真に「命を守る通信」を確保するには、衛星電話やStarlinkのような自立型通信の導入・併用が重要です。
Q4. 通話料が「0円」なのはなぜ? 本当に無料?
A. 仕組みはIP通話(VoIP)。
- LINE通話やZoomと同じようにデータ通信の上で音声を運ぶ方式です。
- インターネット接続が前提なので、オフライン環境やキャリア混雑でデータが流れなければ通話は成立しません。
- パケット通信分はプラン内に含まれているか、定額化されているため「追加の通話料が発生しない」という意味で「0円」とうたわれています。
Q5. 通話ログや録音データの保存先はどこ? セキュリティは大丈夫?
A. クラウドに自動保存され、保存先が韓国サーバーであるという報告例があります。
- 公式に所在地を明示していないケースもあり、導入前に必ず確認しましょう。
- 自治体・医療機関・機密データを扱う大企業では「国内データセンター限定」や「保存先の国を指定条項化」していることが多く、国外サーバーは調達NGとなる可能性大。
- 暗号化の有無/アクセス権限管理/バックアップ体制は最低限チェックすべきポイントです。
Q6. 結局どんな場面に向いている?(早見表)
利用シーン | ハザードトーク適性 | ワンポイント解説 |
---|---|---|
社内連絡・平常時の業務 | ◎ コスト◎ | 月額定額・一斉通話・録音管理に強み |
災害現場(電波はあるが混雑気味) | △ 電波依存 | 通話は可だが、帯域逼迫に注意 |
通信インフラ停止・広域停電 | × 使用不可 | 衛星電話・スターリンク等が必要 |
個人情報・高度機密の取り扱い | △ 要要件精査 | 保存先サーバーと暗号化方式を確認 |
Q7. 導入前に必ずチェックしたい「4項目」
- 通信方式の理解
- MVNO/キャリア帯域依存であること
- 通話条件
- IP通話前提、圏外時は不可
- 保存データの暗号化
- エンドツーエンド暗号 or サーバー側暗号化か
- サーバー所在地と管理主体
- 国内/国外、事業者名、第三者認証(ISO 27001 など)
まとめ :ハザードトークは“万能”ではない
ハザードトーク M1は、複数同時通話や録音・ログ管理が簡単に行える点では便利です。
一方で、
- 通信インフラが被災すると利用できない
- 保存データが国外に置かれている可能性大
といったリスクも抱えています。
「日常連絡を効率化するツール」としては優秀ですが、災害時の最終バックアップには、衛星電話やスターリンクなど別系統の通信を併用することを強く推奨します。導入を検討する際は、上記4項目を必ず事前に確認し、自社のBCP(事業継続計画)に適合するかどうかを見極めてください。
目的や利用シーンに応じて最適な通信手段を選ぶには、ハザードトークだけでなく、Buddycom(バディコム)など同様の機能を持つ製品も含めて比較検討することが大切です。
また、災害直後やインフラが遮断された状況下での通信を想定する場合は、ハザードトークのような通信方式ではなく、衛星電話やStarlinkのような“通信インフラに依存しない手段”を視野に入れるべきでしょう。